本作は、エールの最高傑作『ムーン・サファリ』から5年を経てリリースされた。パリらしいムードをみなぎらせたエールが、最高の仕事をこなして帰ってきたのだ。自らも繰り返し言っているように内気な性格で有名なJB・ドゥンケルとニコラス・ゴダンは、(2人にとって不思議なことに)不評だった『10,000HZ LEGEND』と、ソフィア・コッポラ監督映画の実に不可思議なサントラ盤『Virgin Suicides』にここ数年を費やしてきた。だが、彼らお得意の方法論を展開したなかなかの作品ではあるものの、リスナーの本当の期待とはほど遠かった。うれしいことに本作では、エールの大好きな姿――過去に傾ける耳と未来を見つめる目を持ったふたりの絶望的なまでに甘ったるいロマンチックさ――に再会できる。とろけるほどすてきなトラック――時間と場所という概念がない代わりに、痛烈なサイケデリアに乗ってのたうつクールで壮大なポップ・ソングのコレクションだ。
本作は2人が自ら担当したヴォーカルと、セルジュ・ゲンスブールのコラボレーター、ミシェル・コロンビエの手によるはかなくきらびやかなストリングスによって上々の滑り出しを見せる。ひょっとすると、たとえばレディオヘッドのプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチなどのように外部からプロデューサーを招いたおかげで、これほどまでに美しく整然とした音作りができたのではないだろうか? いずれにしろ、神々しい「Cherry Blossom Girl」といった繊細な叙情詩は、10ccの名曲「I'm Not in Love」を思わせる包みこむようなヴォーカルを聴かせる「Ran」といったエレクトロニックの傑作トラックとみごとな調和をとっている。
レーベル・メイトのダフト・パンクと共にフレンチ・ミュージック・シーンの革新性を世界に知らしめるフレンチ・エレクトロ・デュオ、エールのサード・アルバム。ナイジェル・ゴドリッチをプロデュースに迎え、、シネマ・ミュージックに通じるドリーミーなラウンジ・サウンドを提示。アコースティカルな温かみと、様々な表情をみせる電子音が浮遊する彼らならではの世界観を凝縮した1枚。初めて2人だけによるヴォーカル録音、フランシス・コッポラの映画『Lost In Translation』に書き下ろされた「Alone In Kyoto」も収録。