どこまでも救いのない物語。それはある瞬間、ふとどこかに突き抜ける。矛盾した言い方だが、救いのなさが逆に救いに繋がっていくのだ…ブルースに否定されながら、それでもブルースにしか癒しを求められない人間たちのあがき。それが、ブルースを前面に押し出す時に花村万月が描く物語である。マンハッタン・レノックスのスラムで薬漬けになった伝説のブルースギタリストと濃密な時を綴った『ナッシング・バット・ザ・ブルース』をはじめ、音楽を、空気を、匂いを、物語に昇華させた万月文学の原点。