仏教経典には、さまざまな前世の因縁物語が説かれ、主には釈迦仏の前世による因縁を明かし、現世や来世を説いている。これをジャータカというが、広義には釈迦のみならず、釈迦の弟子や菩薩などの前世の因縁も含めてジャータカ、あるいは本生譚と呼ぶ場合もある。 しかし、本来ジャータカとは特別な形式と内容をそなえた古い文学の種類を称して呼んだものである。また漢訳仏典ではこれらの経典を『本生経』と総称し、パーリ語仏典には22篇に分けて計547もの物語がジャータカとして収録されている。この形式は、現世物語・前世物語・その結果(あるいは来世物語)という三編で構成されている。散文と韻文とで構成され、紀元前3世紀ごろの古代インドで伝承されていた説話などが元になっており、そこに仏教的な内容が付加されて成立したものと考えられている。 しかるに仏教がインドから各地へ伝播されると、世界各地の文学に影響を与え、『イソップ物語』にも、この形式が取り入れられたといわれる。また『今昔物語集』の「月の兎」なども、このジャータカを基本としている。