中井英夫作品集 全11巻揃
全巻署名サイン付
今日では大怪作アンチミステリ『虚無への供物』の作者として知られるが、実は推理小説よりも幻想文学作品の比重が高い。またその博識ぶりを生かした評論、エッセイの著作も多い。
7歳の時から江戸川乱歩(の妖しい世界)に耽溺して自分でも幻想・妄想小説を書き始め、10代前半で夢野久作や小栗虫太郎を読破していたという相当な筋金入り。「薔薇」「黒鳥」「月蝕」といった妖しげなキーワードにコダワリが強い(ただ「前日の皆既月蝕を見損ねたから“月蝕領主”の名は放棄する!」などと、自筆年譜にわざわざ書いていたりもする)。また同性愛者であり、1950年代以降の日本ゲイカルチャーとの関わりも強い。『虚無』が最初に(途中まで)掲載されたのも会員制男性愛サークル「アドニス会」発行の、いわゆるゲイ雑誌だった。三島や澁澤龍彦らとは長年に渡り「(BLだけに限らず趣味・価値観のあう)同好の士」として親交が深かった(しかしそんな三島の自刃に際しては「あの彼流の美学は私には我慢ならない」「要するに天皇一家の存在はあんたの飯の種なんだね」という旨の手厳しい批判をしている)。
その一方で(三島ら他の多くの作家が「作品がすぐ古くなる」という理由で排除していた)当時の世相・時事風俗に対する異常なまでの愛着・執着も特徴。他人の作品解説文で掲載雑誌の広告内容(コロムビアのポータブル蓄音器がどうたらこうたら、等)について無駄に熱く語ったり、「実際の事件関係者の名前までちゃんとしっかり書かないと死んじゃう病」などは、大いに好み・評価の分かれるところだろう。